「ブラック・ラグーン」とは何か?
架空の『今』という時代、架空の『東南アジア』。
マフィア・ジャンキー・傭兵・娼婦。場合によっちゃぁそれら複数の肩書きまで抱え込んでるような奴も珍しくない、道を踏み外したバカタレアウトロー達がたむろする、タイ南部にある架空の街、ロアナプラ。
ここに事務所を構える『ラグーン商会』は、事もあろうに改造魚雷艇をその商売道具とし、金と仁義さえ通せば何だって運ぶウラの海運業者。
依頼によっては空荷で出航して、洋上で荷物を受け取る事も珍しくない。とは言え大抵の場合、代金が弾丸や対戦車ロケット砲というあたり、ありていに申せば海賊も一業務にしているのである。
そのラグーン商会の誇る高速魚雷艇に、ひとり場に相応しくないネクタイ姿の男が居る。
彼の名はロック。日本人としての本名は岡島緑郎。かつて大手重工会社の本社資材部に在籍していたニッポンのサラリーマンでありながら、色々あって今は胡散臭い事ラグーン号の連中と行動を共にしている、幸薄い主人公である。
図らずも同僚となったのは、二挺拳銃と入れ墨、黒のタンクトップにカットジーンズで二挺拳銃を振り回し、暴れまくる日本漫画史上最凶のヤバキチガンマンヒロイン、レビィ。
フロリダの大学在籍時代、その頭脳と技能故におイタをやらかしてマフィアとFBIを敵に廻しちまったというハイテク方面担当のベニー。
元帰還兵にして、未だ語られぬ強烈な過去を持っているらしい、船長にして経営者のダッチ。
こいつらが銃撃戦したり銃撃戦したり銃撃戦したり銃撃戦したりする銃撃戦マンガが、「ブラック・ラグーン」である(いや、それだけでは無いのだが)。
本作が初めて掲載されたのは、小学館発行の『月刊サンデーGX』2001年4月号。最初は読み切りというカタチであった。その後一年近い準備期間を置いて連載が開始され、筆者がこの原稿を書いている2004年1月現在、同誌の看板連載のひとつとなっている事は皆さんご存じの通り。
作者の広江礼威は、94年に『翡翠峡奇譚』で商業誌デビュー。「ブラック・ラグーン」以前に商業発表した作品は、そのキャリアの長さを考えると非常に少ない。漫画家としては、もうひとつのペンネーム『れっどべあ』(サークル名はTEX-MEX)名義によるコミケでの活躍の方がメインフィールドだった作家なのである。
10年近く商業誌で細々と連載をしながらも、コミケ向けに男性向け18禁同人誌を描いて描いて売り続け、画力を蓄えながら堪え忍び続けた結果として、「ブラック・ラグーン」はめでたく大ブレイクと相成った。ここに至るまでの紆余曲折や艱難辛苦は、作者本人のみぞ知るところであろう。
さて、読み切りとして始まり、その後看板連載にまで成長した「ブラック・ラグーン」の特色は何か。連載第一シーズンとなった"Chase for ring-ding ships"は、ブラック・ラグーンという作品を改めて読者に紹介し、仕切り直す役割があったのだが、緻密に計算された銃撃戦シーンのコマ割りは、読者に強烈なインパクトを与える事に成功している。
そして続く、"Rasta Blasta"3話によって、単なるアクションマンガとしてブラック・ラグーンを捉えていた読者は、ド肝を抜かれる事となった。
そう、無敵の鉄骨キチ○イメイド、ロベルタの登場である。ケブラー防弾傘にSPASショットガンを仕込み、バカデカいトランクには重機関銃、それでも外見はあくまでメイドという、近年の『萌え市場』に迎合しているのか反抗しているのか判りかねるこの鮮烈なキャラクターの登場は、ブラック・ラグーンという作品の方向性を決定付けたと言ってもいい。
続く"Das Wieder Erstehen Des Adlers"ではネオナチの白人至上主義者どもを皆殺しにし、ラジカル路線を匂わせたかと思えば、ロックとレビィがガチンコな友情を育んでしまう"Calm down,two men"を掲載、そして"Bloodsport Fairy tail"では自我境界までブチ壊れたキリングマシーンにして、ゴスロリなファッションに身を固めた双子の幼児が登場、事もあろうに、捕らえてきた人質の頭蓋骨に長釘をガスガスブチ込むなどという描写までやってしまうのである。
「ブラック・ラグーン」連載初期の特色とは、オタク層のリビドーを間接的に刺激する『萌え』を導入しているように見せておきながら、その実それを完膚無きまでに破壊する事で作品を作品たらしめてしまうところにあったのではないか?
今後本作がどのような展開を見せるのかは判らないが、このような経緯を経て「ブラック・ラグーン」はサンデーGXを代表する作品として、見事読者に受け入れられてしまったのである。
単なるアクションマンガに留まらず、社会派な要素を物語のスパイスとして用いながら、時折アキバ的な『萌え要素』なるモノを取り入れ完膚無きまでに破壊し、再構築を試みる。
疾走感溢るるクラッシュ・アンド・ビルド。それこそが、「ブラック・ラグーン」の魅力であろう。
果たしてこの作品は、どこに向かって突っ走っているのか。誰か俺に教えてくれ!
(2003年11月・文中敬称略・大江)











"BLACK LAGOON"(TM)(C)Rei Hiroe/Shogakukan Inc.
JDAR 2004











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